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政の言葉を借りるなら、合う合わないの問題ではなく、人より多く字を書いてきた者が持つ感覚なのでは、と思った。
私、字を書くことを、とても大切にしているんだ――
それにしても、義父は何故、高価で商売道具でもある万年筆を私にくれたのだろう。
政が言う以上に、女性向けではないこのペンを、私が扱えるわけがないことは気づいているように思えてならないのに。
うーん、と頭を捻りながら、加奈江は自分の布団に潜り込む。
「終わったか?」
暗がりから、政が声を掛けてきた。寝返りを打って彼女を見ているのが気配でわかる。
「ごめんなさい、起こした?」
「いいや、俺もついさっき電気落としたところだから」
うーんと伸びをし、彼女の方に手を伸ばす。
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