【4】 黒い万年筆

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頬をさすり、髪を撫でるしぐさは、ふたりで床を並べる時には必ず政がすること。彼は彼女の髪に触れるのが好きで、彼女も彼に髪を梳かれるのが好きだった。 「カナ」 政は言う。 「なあに」 「お前、俺に隠していることがあるだろう」 どきりとした。 けど、あえて知らないふりをする。暗がりで顔が見えにくくて有り難いと思った。 だから、問い返す。 「どうしてそう思うの」 「だって、親父とあの武先生だろ。黙ってお前を送り出すはずがない」 「何もないって」 「ウソつけ」 さあ、言え、言うんだ、と政は何度も責める。 何もないと、逃げても許してくれそうもない。
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