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加奈江の指導教官の名は武という。
学内でも異彩を放つ存在感のある名物教授で、柔らかい癖毛をぴっちりと櫛目を入れて撫でつけた頭髪に蝶ネクタイがトレードマークである。
同じクラスの学生と指導教官の話が出た時、誰が担当になるかで少し物議を醸した。
加奈江は、自分が出したテーマに対応してくれるなら、正直誰でも良かった。武と聞いても驚かなかった。
驚いたのは周りだった。
滅多に女子学生の指導をしない武先生が、何故?
替われるものなら替わって欲しい、いや、替わって下さい、譲って、と複数の男子学生に真面目な顔で詰め寄られたりもした。
「あっちも仕事だから、男も女も関係ないだろうさ」
まわりの反応に驚いた加奈江から話を聞かされた政は言った。しかし、と言葉を継ぐ。
「武先生は選り好みする、って聞いてる。優秀者ばっかりって言うよな。選ばれるだけでもハクが付くから、替わってもらいたがる奴らの気持ちもわかる」
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