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政の父はふたりが通う大学の教授だ。彼にしてみれば顔なじみのおじさんたちがぞろぞろと教授となって並んでいるから、何かと収まりが悪いと言った。
「だって、小さいころを知られているんだ、何と言うか…イヤなものだぞ」
「武先生も?」
「親父の一番の親友。一番ニガテ」
苦虫を噛み潰したような顔をして、政は紫煙を吐いた。
その後、政はあーでもない、こーでもないとぶつくさ言う『まったく食えない武おじさん』談義は続いた。夫の、子供のような文句を思い出し、小さく吹き出しながら資料を抱えて指定された教室へ急ぐ途中、庶務課の前を通った彼女は足を止めた。
駅前のスーパーの安売りを告げるチラシが、加奈江を誘うように置かれていたからだ。
古新聞を束ねて捨てるために仮置きされていたのだろう、日付は今週中までとある。
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