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「あのう、これ、もらっていいですか?」と、事務室から出て来た職員に、声をかけて一言断って、チラシの束から何枚かを抜き出す。
「チラシでいいんですか、新聞の方は……」
「ええ、いいんです、チラシで」
資料に使うのだろうか、と訝しげな目で見る事務員にかまわず、加奈江はチラシ片手に中身のチェックをする。
昨晩、学校へ行くと言ったら、久し振りに学校近くの肉屋のコロッケが食べたいと政は言った。
今は当時の面影のかけらもないぐらい大食漢ぶりを発揮しているけれど、高校生の頃は小食で、食べることにこだわりがなかった政が、唯一好きだと言っていたコロッケを、ふたりで学校から帰る時に加奈江もぱくついて帰った。彼女にとっても恋人時代の甘酸っぱい思い出のある味だ。
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