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「いい……いいわ。久柳くん。あなたの言うとおりに、する」
頬を妙に赤らめて、粟島は頷いた。いや待て、何か激しい誤解をされていないか?
「おい、粟島」
「来週の水曜日。美術室に来て。大丈夫、人払いはちゃんとするわ……ああっ」
楽しみだわ、という粟島の表情には、引いた。
頬を紅潮させ、物思いにふける少女の図というのは、普通興奮するものなのかもしれない。あるいはきゅんとするのかもしれない。美人なら俺もそうなる。
ただし、粟島るいは率直に言って……陰気な女子だ。お世辞にも可愛いと言える部類ではない。華やかさは欠片もないし、制服も規律にしたがっているせいかダサく見える。髪もボサボサで目も半分くらい前髪で隠している。女以前の話に思えた。
「じゃあ、久柳くん。来週の、水曜日。美術室よ。その服、持ってきてね」
「あ、待て、粟島――」
「男に、二言はない、はずよ」
そう言って、粟島はスキップして被服室をあとにした。
後に残ったのは、長い溜息をつく俺。頭を抱える弱弱しい姿が鏡に映りこんでいた。
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