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「…………」
鏡の奥にはスレンダー美女。鏡からはみ出しそうな身の丈。頬骨が目立つし、肩幅もあるし、やはり無理があったのだ。女としては違和感があるだろう。
そう笑い飛ばしてしまいたい。
「……似合わねえ」
当たり前だ。鏡の奥で自嘲するのは、他でもない俺自身。高校二年生の男子、久柳牧野(くりゅうまきの)がいるはずだった。
女装の。
「……アホくさ」
笑い飛ばしてしまいたい、できることならば。ああ、何故俺はこんなアホなことをしているんだろう? いや、妙な流れがあったとはいえ、こんな格好を選んだのは他でもない俺自身なのだから。理由は一番知っているはずだ。
夕方の教室。誰も使わない被服室の片隅。
鏡とにらめっこをする俺をどうか笑わないでほしい。これには理由があるといえばあるのだ。
はじめに言っておくが、俺は健全な高校生男子だ。女子が好きだし女装の趣味もない。これはほんの出来心と言うか、流れのせいなのだ。
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