第1章

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 被服室を使うような部活も、委員会も存在しない。家庭科の授業でちょっとお世話になるくらいで、人はほとんど来ない。なおかつ姿見がこの教室くらいしかないから、人目と恥を忍んでここに飛び込んだわけだ。  もう一度弁解しておく。俺はいたって単純な男子高校生であり、女装趣味は一切ない。  ……じゃあなんでこんな「下準備」を念入りにやってんだよ、俺。 「はー……」  鏡の中の俺はしかめっ面というか、険しい表情をしている。世の中を達観するかのような遠い目で手を額にあてる。  これはダメだ。どうしようもなく。  一応、母親の見立てに狂いはなかった。俺専用に採寸された白のフリルブラウスと紺のフレアスカートは、俺の身体に合うように作られている。足元のスースーする落ち着かない浮遊感を除けば、まったくもって違和感なく着れてしまうのだ。  それが何より怖い。俺の母親はなんというクオリティの高いものを作ってしまったんだ。つーかこんなことしてる暇があるなら仕事しろと言いたい。  さて、あとは例の発案者たちにどう言えばいいか、だが。  何と言おう? 作れます、とだけ言えばいいのか。ウチに来て採寸すればできますと、それだけ言えばいいのか。いや待て、絶対俺も「店員」としてこの恥ずかしい格好をする羽目になるのか? それはなんとしても避けたい。
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