第1章

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 そのとき。  パシャッ、という、恐ろしい音を背後から聞いた。  は? え? 「パシャッ」って、まさか? 「なっ――」  俺は慌てて振り返った。身体中から冷汗が噴き出してきた。聞き覚えのある音だ。今一番危険な音かもしれない。それはつまり、カメラのシャッター音ではないか? だとしたらつまり、俺の格好を?  死ねる!  表情から余裕がなくなった。一瞬で空気が凍り付いたような錯覚に陥った。誰だ。俺の生涯最大の汚点になるだろう瞬間を、最悪のタイミングでカメラに収めるような輩は……!  ――女、だった。  俺はそれで一瞬安堵してしまった。これがもし、クラスの性転換喫茶の発案者男子だったりしたら。俺の恥ずかしい女装写真はたちまち教室中、下手すると学校中に流布され、俺の残りの高校生活は惨憺たるものとなっていただろう。口の堅そうな女であることにまず安堵した。  しかし、この女は。  知らないわけではない。同じクラスの粟島るい(あわしまるい)。規定通りの膝丈スカートと艶のない黒髪がもっさりした印象を与える、陰険で陰湿そうな女だ。あくまで見た目の印象だが、まあ実際喋らないし社交的ではないんだろう。
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