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しかし、見られたことに変わりはないし、なおかつ手にはデジタルカメラがある。それは、ヤバイ。
「あ、粟島……お前、何を」
「……久柳くん。よね」
地獄から出てきたみたいな掠れた低音が、今は得体のしれないものみたいで恐ろしい。俺はどう答えるのが正解かわからず、返答に困った。果たして「うん」と認めていいのか。認めるということは女装男子イコール俺ということを自供するようなものだ。それは嫌だ。
かといって相手は俺だと特定して話しているのだから。やっぱり、装いを変えるだけで俺が女に見えるわけではない。隠そうと誤魔化したって無駄だろう。
俺は諦めて控えめに首肯した。痛々しくて目を合わせられない。
「そう。久柳くん……女装、するのね」
「ちがっ」
口角をきゅうっと上げて笑う粟島が怖かった。これから俺はどうなってしまうのか、すべては恐ろしいことに眼の前の粟島次第だった。
「これは、クラスの出し物で仕方なく」
「久柳くんがわざわざ学校に持ってきて? 試着までして? 随分献身的なのね。本当は誰かに見てほしかったんじゃないの?」
「は!?」
粟島を挑発してはいけないが、さすがにカチンときた。なんだ、この嫌味で煽るような言い方は。棘しかねえじゃねえか。
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