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「おい」
俺は被服室入口に立っていた粟島の腕を力いっぱい握り、教室の中へ引っ張った。乱暴に扉を閉める。内側から鍵もかける。これ以上誰かに見られたら困るからだ。俺は粟島を黙らせることだけで頭がいっぱいになった。
粟島は何が起こったかよくわかっておらず、驚いた様子でこちらを見るだけだ。
「ふざけんなよ。クラスメイトだからあんまりキツいこと言いたくないけど、決めつけてんじゃねえ。俺に女装趣味はないし、さっきの言い方はあんまりじゃねえか」
「え。あ、あたし」
粟島は戸惑った様子で目を泳がせている。俺を視界に捉えているのかどうか、目は合わない。
「あたしは、その、ただ……気になって」
ごめんなさい、と粟島は小さな声で謝罪した。もごもごと口を動かしており、さきほどの挑発と違い聞き取りにくい。こっちがまあ見た目通りというか、「らしい」喋り方だった。
「……協力者を、探してて」
「協力者?」
本来、俺はもっと粟島を咎めてもいいのだが、何故か続きを促す形になってしまった。思えば彼女の話を聞こうと思ったのが間違いだったのかもしれない。
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