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「……は?」
「絵の、モデル。なって」
粟島が俺の服の裾を握ってきた。すがるように。それがにじり寄る幽霊のような姿だったから、俺は思わず後ずさった。
「いや、待てよ。その絵のモデルってつまり」
「女の子。長髪スレンダーな、美女」
「いや俺男だし!」
「性別は関係ないの! あたしが、キレイと思ったものがいい!」
粟島が普段からは予想もできないほど大きな声で、はっきりと言った。なんというか、感情の起伏が激しい女のようだ。不安定でいて怖い。正直あんまりお近づきになりたくない人種だ。
「いや、悪いけど俺は……」
「……断るの?」
急に粟島の声のトーンが落ちた。地獄の底から沸いて出てきたような、呪われそうな声だ。普段の声はこっちなのかもしれない。俺は情けないが一瞬身を震わせてしまった。
「断るんだ。じゃあ、わかった。……本当は、使いたくないけど」
見て、と言ってよこされたものが何かは、見なくてもわかった。
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