第一章 化ケテル

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 「他にも、ライオンや熊、力のある動物の遺伝子から、人間は強靭の肉体を手にします。魚類からなら、えら呼吸を人間が身につけるでしょう。昆虫からは、その昆虫が持つ特有の能力を人間が扱えるようになる。鳥からであれば、空を飛ぶことだって可能です。私は、その為の研究を続けて数十年、ようやくしてその技術を確立させました。実用化も、そう遠くはありません。近い未来には、あなたたちの生活に有り触れたように存在することになるでしょうね」  熱弁する。熱く語る。自慢の研究成果を次々とあげていく。その遺伝子改良技術について、自身の見解を述べていく。  「人間が進化する日も――近いでしょうね」  指を立て、誇らしげにそう述べた日辻は、記者会見場から退く。表舞台から、舞台裏へと潜る。人もいない。光も無い。真っ暗闇の通り道。日辻は白衣をたなびかせながら、歩んでいく。遠い所から、記者たちの日辻を求める声が響き渡る。光の先から、うごめく人たちが未だに羊を求めている。その声を無視して、一度止めた足を動かす。  「良い演説だったね日辻さん」  闇に潜める男が一人。壁によりかかるのをやめたある男が、奥の影から姿を現す。黒い髪。真面目そうな風貌をしたスーツの男。二十代半ばの落ち着いた好青年のような雰囲気を醸し出す彼。だが、異常を感じざるを得ない。彼の服装はただのスーツではない。黒いスーツに、黒いネクタイ。好青年の服装は、喪服だった。喪服の男が、爽やかそうに笑う。  「うん。すごい感動したよ。日本の進化を目の前にしてる気分だったね。流石日辻さんだね。この調子で実現できるといいね。僕は応援するよ。あはは」  喪服の男を無視して、日辻は歩き出す。そんな日辻の後ろを追いかける様に、喪服の男も歩き出す。  「雲野くん。一体何の用ですか?」
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