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雲野と呼ばれた男。喪服の男である雲野は、へらへらと笑いながら後ろをつける。
「あはは。ちゃんと仕事をしてますよって事を伝えに来たんだよ。音沙汰ないと心配になるでしょ。取り敢えず、日辻さんの欠陥品を壊してきたよ。残り数体ってところだね。あとちょっとだよ」
「欠陥品が表立っては困りますからね。それに、気は緩めてはいけませんよ。今日もまた、新しい欠陥品が誕生しますよ。ちゃんと処分の方をよろしくお願いいたしますよ」
「うん。分かってるよ。任せておいてね。僕はこう見えて、ちゃんと仕事を真面目にする男だよ。安心してね。あはは」
へらへら。へらへら。爽やかに笑う雲野。黒いネクタイに触れ、スーツをただす。胸ポケットから黒い手帳を取り出すと、その内容を眺める。日辻の後ろを、依然ついていく形で後を追う。
「そう言えばさ、ねぇ、日辻さん。こんなことを思った事はないかな?」
返事は無い。雲野を無視して、日辻は前を歩く。話を聞く聞かない関係なしに、手帳を読みながらも話を続ける。
「この世界は『本や映画』で、僕たちはその作品の『キャラクター』だとしたらってね」
雲野の口から出て来た哲学的仮説。興味が湧いたのか、歩くスピードが落ちる。
「シミューレーテッドリアリティ。この世界は、仮想世界だと言う考えですね」
「うん。そう。この世界は仮想世界だとしたら、この世界が『物語』だとしたら、僕たちはどうやってこの世界が物語だって気付けばいいのかな?」
「気付く方法なんてありませんよ」
「ふぅん。そっか。そうだね。普通は気付けないよね」
雲野は足を止める。後ろを振り向く。彼の目に映るは、表舞台の眩しい光。手帳をパタンととじる。怪訝そうに外を見つめる雲野に、日辻が声をかける。
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