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そう気持ちが落ち込む城崎の前に、スーツ姿の大神がやってくる。慌てて来たのか、息を切らしながら声をかける。頭に乗った雪を手で払う。城崎の頭にも雪が乗っかっている事に気付いた大神は、彼女の頭を撫でる様に手で雪をどかす。
その手を、彼女は片方の手で掴む。大神の手が何処かにいかないように抑え込む。無理やり彼の手を動かして、彼女の黒い髪を半ば無理やり撫でさせる。
「え、なに? どうしたよ?」
「おそい。ばか」
城崎は依然大神の手で頭を撫でさせるのを止めない。その行動にほくそ笑み、彼女の力では無く、大神の意思で、彼女の頭をわしゃわしゃと撫でる。くすぐったそうに、うれしそうに彼女も笑う。そしてすぐ砕けた笑顔を見せてしまった事を恥ずかしがり、顔を赤くして距離をとる。
「じゃあ行くか!」
「……うん」
大神はポケットに手を突っ込み、後ろからそれについていくように歩く城崎。彼女の手に握られたプレゼントがゆらゆらと揺れる。二人の肩には雪が積もる。彼らが歩いた跡が出来る。薄く積もる白い雪。ザクザクと雪を踏みしめる音が響く。後ろから、彼の背中を城崎は眺める。真黒なスーツと、逆立つような男らしい髪形。スポーツマンみたいな後姿。そんな彼を眺めながら、城崎は彼に向けて雑談を始める。
「どこ行くの?」
「美味いもんが食えるところかなぁ」
「居酒屋?」
「うんにゃ、今日はおしゃれなところ」
雪が乗った冷たい風が、びゅぅと吹く。冷たい空気が首筋を撫でる。途端に冷える首筋を温めようと大神は擦る。「今日は寒いな」、「そうだね」なんて言い合いながら、二人はとぼとぼと歩いて行く。二人の距離は、依然変わらず。城崎が後ろを歩き、大神が前を歩く。ふと、ちゃんとついてきているだろうかと気になり後ろを向く。たまに目を離すと、いなくなっているから豆に確認する。
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