第一章 化ケテル

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 するとそこには、「はぁー」と大きく口を開けて、暖かい息で手を温めようとしている彼女がいた。今の冷たい風で冷えたのだろうか。「はぁー」、「はぁー」とその小さい口から出る温かい息で何度も手を温めようとしている。寒そうに体を震え、そして手を包むようにこすり合わせる。行動も言動も全て小動物みたいで可愛らしい。そんな可愛らしい彼女を見て、小さく噴き出した大神は、スッと手をさしのばす。  「たまには手でも繋ぐか?」  なんて言いながら彼は笑う。その手を、何とも言えない顔で見つめたかと思えば、彼女は少し顔を赤くしながら、彼より前を歩いて行く。やや速い足取りだった。  「つながない」  「ありゃ、フラれちった」  そんな彼女を追いかける様に、出した手をポケットに入れながら、彼は歩き出す。  ◆  「遺伝子改良による生物進化は可能です」  白衣を着たくたびれた顔をした四十代の男がそう断言した。 数多のカメラのシャッター音が響き渡る。カメラのフラッシュがほとばしる。突き出されたマイクが彼の声を拾う。記者たちの声が、この場を飛び交う。「実験は!」、「成功したのですか!」、「具体的な内容を!」、「不可能だと言う論文もあります!」、「なにかお言葉を!」、数多の質問が飛び交う。この狭いホールで、声が響き渡る。白衣を着た男の声も、すべて含めてだ。  「日辻八樹教授! 遺伝子改良が成功したとして、その技術はどのように使われると思いますか!」  日辻八樹と呼ばれた白衣の男。顎に蓄えられたひげを、手で撫でる。  「良くある話ですよ。例えば、トカゲは尻尾を切り捨ててもまたはえる強い自己再生能力を持っています。そのトカゲの遺伝子を人間の遺伝子へと複合改良すれば、人間もまた失った手足をはやすと言った自己再生能力を手にすることが出来る。先ほどの質問に答えるとしたら遺伝子改良技術は、先ず医療分野に大きく貢献しますよ」  続けて、熱意が入って来たのか、テーブルに置かれたスタンドマイクを握り、持ち上げる。
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