7人が本棚に入れています
本棚に追加
.
冷蔵庫から出したばかりのひんやりしたカップを、
宝箱でも開けるようなワクワク感で、小皿にひっくり返す。
予め内側にサラダ油を塗っておいたカップから、
ツルンと抜け落ちた黄白色が、小躍りするようにプルルと揺れた。
うん。
気泡も出来ていない滑らかな側面。
山頂のカラメルも、煮詰め過ぎない程良い焦げ茶色。
久しぶりに作ってみたカスタードプリンだったけど、我ながらなかなかの出来じゃないだろうか?
宝箱から取り出した宝物を扱うように、丁重に小皿を運ぶと、
わたしはそれをそっとテーブルの上に置いた。
網戸から入る7月の風が、風鈴をチリンと1つ。
無音以上の静けさを奏でて、通り過ぎていく。
見ればその細かい格子の奥には、童心を蘇らせるような澄んだ夏空。
それはなんだかずっと昔から、変わらない輝きをそこに留めていたかのよう。
我が家の茶の間は、わたしが幼い頃から何も変わらず、
古さを愛着へと昇華させて、その陽射しを受け入れていた。
真ん中を陣取った大きなテーブルを中心に、小物が並んだ硝子戸棚があった。
半纏姿の女の子の人形は、家族旅行で買ってきたものだ。
大きなテレビの横には、クロスをかけられ、すっかり物置台と化しているカセットコンポ。
レコードもラジオも聞けるというお父さん自慢の優れものも、いつの間にか花瓶の台座に成り果てている。
いったいいつまで飾ってるつもりか。
お兄ちゃんが書道コンクールで優秀賞を取った時の賞状が、依然として定位置からわたしを見下ろしていた。
.
最初のコメントを投稿しよう!