蜜月②~Sweet days~

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 まずは一方的に「サヨナラ」と告げたことを詫びていた。 「……頭ではわかってた。でも、あのママと一緒にいる喬木さんを見た瞬間、俺の中で何かがきれたんだ。怖かったよな、マジ切れした俺は。……ごめん」 「俺はもう大丈夫です。澁澤さんに誤解させたことを、ずっと後悔してました。本気でふ、振られたなぁって……」 「ああ、アレか。喬木さんが素敵なクリスマスイブを、とか言うからさ。カチンときた。ふざけんななっ、てね」 ────ホテルには? 「行くわけないだろ、イブの日のデートも断った」  視線をおろした澁澤さんと目が合い、どきんとなる。  あ、俺……。この()が好きだ。澁澤さんの全部が大好きだけど、一番好き。 「それともう一つ、喬木さんに謝らなければならないことがある」 「なんですか?」 「絶対に怒る」 「怒りません」  ……らしくない。ぽつりぽつり語り出した内容は出会った頃の─────。 「……酷くないですか?知りながら俺と関係を持ったんだ!」 「だからごめん、謝ります」  痴漢の冤罪だ。俺が(わざと)電車に乗る時間をずらした時期に、女子高校生が勇気を振り絞り謝りにやってきた。俺を痴漢扱いをした澁澤さんの剣幕があまりにも怖くて、名乗り出る勇気が出ませんでした、と。そういえば俺の隣に小柄な女の子がいたなぁ……。 「噂の、電車のプリンスの写メを撮りたかったんだって。近づきすぎて彼女のスクールバッグが俺の腰らへんに当たった」 「……それで澁澤さんは真後ろに立つ男の俺の方を疑ったんですね。俺が蜷川さんの事務所へ菓子折を持参し、あなたのマンションでごはんを作ったり、滑稽でしたか?」 「それはなかったけど。ちょっとあんたに興味が湧いた」  興味……!  ぷくっと剥れる俺を抱き締め直す。そろそろ寝ようか、喬木さんの目の下のクマが気になるよ、とか。機嫌をとりにくる澁澤さんが腹立たしい。 「喬木さん、ごめんね。機嫌を直してよ。積もる話しは週末にでも、また。あのさ、最後に……キャンディを贈る意味を知ってる?」 「いいえ、知りません」 「そっか、知らないのならいいや。俺以外の人からは受け取るなよ」 「はい」  眠りにつく前に、お休みの軽いキスを交わす。チュッと触れた。甘いお砂糖みたい。ふわふわ溶けてなくなってゆく綿菓子みたいだ──……。  少しずつ、心の距離が近づいていく。俺は澁澤さんと一緒なら、変われるような気がした。週末は思い出が残る、とびきり素敵な夜をすごそう。約束をしたツリーを飾り、二人で食事の準備を。  なにか忘れているような……?  シャンパン! 「喬木さん、早く寝な。体を動かすと……ぎりぎりの理性が飛びそうだ」 「……はい」  本気で睨まれたような気がする。澁澤さんの頬に「おやすみなさい」と唇を寄せた。「うん、おやすみ」。……あれ、機嫌がよくなった?ぴったり寄り添い、いつの間にか残業疲れもあり、深い眠りに落ちていった────。 
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