『電車のプリンス』

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 そして噂の彼、『電車のプリンス』がスーツの上着のポケットに捩じ込んだ名刺が同僚、親友でもある小橋に見つかるのは昼食を摂った後だった。  これ、どうしよう。すっかり痴漢扱いをしていた。完全に誤解をしていた。2度と会いたくない。  そうだ、ゴミ箱。デスクの下のゴミ箱に目を向ける。 『Office、NINAGAWA。インテリアコーディネーター・澁澤一颯』 《しぶさわいぶき》。名前の上は小さなローマ字を綴っている。  名刺をひっくり返せば最寄り駅からの簡単な勤務先への地図と彼が取得している資格が記載されていた。彼の本業はインテリアコーディネーター。建築関係の仕事をしているのか。やり手のビジネスマン風に見えたのに、ピアスが気になった訳だ。  あの華々しい、お洒落な雰囲気をなんと例えればいいのだろう───。『電車のプリンス』以外に彼を例える上手い形容詞が浮かばない。考えながら取得した資格を確認した。  2級建築士。カラーコーディネーター。  へぇ、凄い……!  リビングスタイリストまで取得しているんだ。影でコツコツ勉強をする、努力家タイプなのかもしれないな。インテリアコーディネーターの仕事に就くのには、セン スだけではなく探求心や軽やかなフットワークも大事だ。自らが動き、人脈を築き上げていく。  俺には 無理な仕事だ、きっと精神的に参ってしまう。ストレスがたまってそのうち倒れるよ。給料計算とたまにある外回りの仕事で精一杯だ。 「喬木、なに見てるの?」
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