『電車のプリンス』

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 そして夜の9時。今日の残業は1時間半程で終わり、小橋と拉麺を食べた後、お店の前で別れを告げる。真っ直ぐ帰路を急ぐのではなく、ある場所へと足を運ぶ。大事な話しをする為だ。  噂の彼とはあの日以来、会っていない。俺が電車を一本、早くした理由もあるのだが。結局名刺は捨て切れなかった、ゴミ箱に丸めて投げればいいものを……。  どうしてもあの姿や声が焼きついてしまってダメだった。正直、恨まれそうで怖かったりする。  彼の勤務するオフィスの所在地が俺が乗る電車の逆方向だと知ったのは、自分のアパートへ戻って来てからの事だ。その日はざっと目を通しただけで1日中、上着のポケットに入れっぱなしの状態だったのだ。  1週間。澁澤さんと同じ車両だったのはたったの一週間だ。二度と会いたくないと思っているはずなのに頭から離れない。    強烈なんだよ、あの人の印象は。社員バッヂを取りに行かなきゃならないのかなぁ。 「お疲れさん、遅かったな」
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