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ギョッとした。
「やっと見つけた。貴方さ、電車の時間を変えただろ。全然、会わないよね。菓子折りは?社員バッヂはいらないの?まさか俺の名刺を捨てたとか」
「あ……いえ……その」
捨ててない!断じて捨ててない!ヒクッと喉元が引くつく。じりじり距離を縮める、目の前の澁澤さんに圧倒されそうだった。
仕事帰りだと思われる彼の服装は以前シックに決めた黒のコートとは違い、カジュアルなキャメルのブルゾン、グレーのチノパン、ラフなスタイルだ。
悔しいが、『いい男』というものはなにを着ても良く似合う。例えそれがヨレヨレのジーンズであっても。
ほんと羨ましいっ。そして肩には図面ケースを引っ掛けていた。小橋の言った通り、建築関係の仕事だ。人気のインテリアコーディネーター、一級建築士の蜷川さんのお気に入りだという彼。
でもどうして?疑問が浮かぶ。
「社員バッヂを見たことがあるって言っただろ?俺の人脈、舐めんなよ?あんたがあの拉麺店に入る所から後をつけてたんだよ」
拉麺店から……?こわっ。
「おい圭吾、待ちくたびれたぞ」
背後から声がする。
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