2315人が本棚に入れています
本棚に追加
/253ページ
この場面では救いの声に聞こえたんだ────。
「そちらの人は?」
「し、知らないよ。行こう、葉山さん」
「おい、待てよ」
「圭吾、いいの?」
「うん」
振り返るな、きっとものすごく。
「すげぇガン睨みしてるよ、怖ぇぇ。お前の知り合いじゃないの?」
がん睨みか、そうだろな、やっと見つけた俺がツレナイ態度で去ろうとしているのだ。そりゃ腹も立つだろう。葉山さんの問いには答えなかった。
「知らない人だよ、早く行こう」
「あ、ああ」
葉山さんの袖を引っ張った。葉山さんは俺より3つ年上の、今年で31歳になる独身男性だ。本人は『医療関係の仕事をしてるよ』とコトが終わってからベッドの上で話していたが、真実かどうかなんて分からない。
「喬木くんは会社員?」
「ええ、まぁ。しがないサラリーマンです」
「俺さ、フリーなんだよね。よければ今度もどう?」
「俺もフリーですよ。貴男が暇なときにでも連絡して下されば…」
上手かったし。経験を積んでいるだけのことはある。大人で落ち着きのある男性は安心する。
葉山さんとの出逢いはゲイバーでもなくクラブでもない、その中間に存在するカフェタイプのお店だった。料金もリーズナブルで、気に入った相手が見つかればお互いの連絡先の交換が出来る。
フランクなお店で若い子も多い。葉山さんとの関係は時々一緒に飲みに行ったり。たまにそれ以上のコトをしたり。
親父、お袋。あんたらに言えない秘密があるよ、俺。
最初のコメントを投稿しよう!