『電車のプリンス』

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 この場面(シーン)では救いの声に聞こえたんだ────。 「そちらの人は?」 「し、知らないよ。行こう、葉山さん」 「おい、待てよ」 「圭吾、いいの?」 「うん」  振り返るな、きっとものすごく。 「すげぇガン睨みしてるよ、怖ぇぇ。お前の知り合いじゃないの?」  がん睨みか、そうだろな、やっと見つけた俺がツレナイ態度で去ろうとしているのだ。そりゃ腹も立つだろう。葉山さんの問いには答えなかった。 「知らない人だよ、早く行こう」 「あ、ああ」    葉山さんの袖を引っ張った。葉山さんは俺より3つ年上の、今年で31歳になる独身男性だ。本人は『医療関係の仕事をしてるよ』とコトが終わってからベッドの上で話していたが、真実(ほんと)かどうかなんて分からない。 「喬木くんは会社員?」 「ええ、まぁ。しがないサラリーマンです」 「俺さ、フリーなんだよね。よければ今度もどう?」 「俺もフリーですよ。貴男が暇なときにでも連絡して下されば…」  上手かったし。経験を積んでいるだけのことはある。大人で落ち着きのある男性は安心する。  葉山さんとの出逢いはゲイバーでもなくクラブでもない、その中間に存在するカフェタイプのお店だった。料金もリーズナブルで、気に入った相手が見つかればお互いの連絡先の交換が出来る。  フランクなお店で若い子も多い。葉山さんとの関係は時々一緒に飲みに行ったり。たまにそれ以上のコトをしたり。  親父、お袋。あんたらに言えない秘密があるよ、俺。
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