『電車のプリンス』

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 物心がついた頃から、男の子の方ばかりに視線が向いていた。女の子に興味が湧かない。付き合いたいと思わない。キスやえっちをしたいと思わない。  ……おかしいのか、変なのか?  友達がファンだと豪語する某女性アイドルグループの話題でさえも上の空で聞き流していた。歌、下手くそじゃん?お前の方が数倍もマシだよ、歌も顔も。率直な意見を述べれば『んなワケねーじゃん、冗談キツイよ!』と背中を思いっきり叩かれた記憶がある。  俺の場合、女の子には 勃たない事が判明したのだ。 「喬木くん、もしかして勃たな……」 「え、いや……。今日は気分が乗らない……」  嫌な思い出だ、 消し去りたい。童貞を捨てれなかった高校時代。ああ糞っ!  家族や友人、同僚にも内緒だ。打ち明けられない秘密だ。  付き合う相手は、後腐れのない大人の落ち着いた人がいい。まともな恋愛をしたいなどと望んではいけない。    だって生まれてこの方、本気で誰かを好きになった経験がなかったりする。いつも「いいな」で終わってしまう。恋愛感情が欠落しているのか。仕事して、一生飯を食っていけるのならそれでいい。  けど俺は澁澤さんとの出会いで 、今まで無気力だった人生が180度変わっていく。最初は嫌だったのに『喬木さん』って名前を呼ばれただけで嬉しい自分がいた。  
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