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う……。そ、それは。紹介をしようにも出来ないよ。
「トイレに行ってくる」
「図星か。あ、待てよ!」
トイレに行くは逃げる為の口実だ。そそくさと席を立ち、部署を出ようとする自分を呼び止める声がする。
「喬木さん、外線1番にお電話です」
「…はい」
「桐ヶ谷さんと仰ってました」
「ありがとう」
桐ヶ谷?聞き覚えのない名字だ、誰だろう。デスクに戻ると小橋の姿はなかった。
「お電話代わりました、喬木です」
「もしもし圭ちゃん?あたしよ、あたし!」
あたし?
「律……」律ママ?!
「そうよ。ね、昼食は圭ちゃんの勤務先近くのお蕎麦屋さんで食べない?買い出しに来ているの」
タイミングがいいな、びっくりした。相談したいことがある、こちらから連絡を取ろうと考えていたところだ。でも、なぜ俺の勤務先を知っているのだろう。
「忘れたの?名刺くれたでしょ?」
「そうでしたっけ?」
「名刺ホルダーに大事にしまってあるわ」
そんな何か月前のことすっかり忘れてた。葉山さんと付き合っていた頃かな。
昼の休憩時間は一時間しかない。律ママは「天ぷら蕎麦を頼んでおくわね」「お願いします」、実に気が回る。短時間で食べ終えなくては。
◇◇◇◇
「圭ちゃん、こっちよ!」
金髪のお客は律ママ1人しか
座っていない、手を挙げなくとも目につく。黒のダウン、グレーのニット、カーキ色のカーゴパンツをセンス良く着こなしていた。顔かたちが整っている律ママはとても目立つ。スーツ姿の地味な俺がツレか、周りは好奇な目を向けていた。
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