2314人が本棚に入れています
本棚に追加
「いただきます」
「いただきます、お仕事、お疲れさま」
あまりの食いっぷりの良さと速さに、律ママは唖然としている。「ねぇ、喉に詰まるわよ?」もっと味わって食べなさい。とも言っていた。
「その…昼休憩が一時間しかなくて」
「サラリーマンは大変よね、決まった時間に縛られて、自由に動けないなんて。あたしは真っ平ごめんだわ」
そうだろうな、自分でお店を経営して切り盛りをするタイプの律ママに、会社勤めは難しいだろうな。毎日、上司とぶつかってそうだ。
「圭ちゃんと一緒に昼食を摂るのは初めてね」
「ええ」
「今日は話しがあって来たの」
話し?なんて好都合なんだ。俺もある、聞いてほしい。
「気を悪くしないで頂戴ね」
「大丈夫です。俺もいいですか?」
「いいわよ、あたしで良ければ」
にこりと微笑む律ママは、言葉遣いはおねぇなのに見た目が男性なのでどきっとする。笑顔が消え失せ視線を落とし、とても言い出しにくそうに途切れ途切れ切り出した。
「まだ例の彼と続いているのかしら?」
「ええ、まぁ…」澁澤さんのことかな。
「そう。あのね、はっきり言うわ、止めときなさい」
止めときなさい、何故?澁澤さんがノンケだから?辛い恋になるから?やはり賛成ではないんだ。
「理由は彼がノンケなのもあるけれど、他にもあるの」
「どんな理由ですか?」
視線を戻した律ママを真っ直ぐ見据える。「澁澤さんは止めた方がいい」。オネェ言葉ではない、素で語る真剣な忠告だった。
最初のコメントを投稿しよう!