前兆。

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 蕎麦屋を出た後、どうやって帰社したのか、あまり覚えていない。律ママの話しの内容はこうだった。 「あたし達のような水商売や風俗店を営む経営者は、毎月、内緒でのつく人に、みかじめ料を支払っているの。無銭飲食者や酔っ払いが暴れたりする人たちから店を守ってもらう為にね。違法だと分かってはいるけれど、警察では解決が出来ない問題が起こったりするのよねぇ」  みかじめ料と、澁澤さんがどう繋がると言うのだ、意味が分からない。 「名刺を頂いたとき、気まずそうな態度だったわ。徴収にやってきた人にね、それとなく訊いてみたのよ」   訊いた、何を?  コップの水を一口、二口飲む。氷が溶けて生温い。でも喉を潤すのには充分だ。 「圭ちゃん、彼は……」 「おかえり、喬木」 「あ、ああ。ただいま」 「知り合いとの昼食は楽しかった?」 「うん、息抜きになったよ」 「他の奴らがさ、派手なお兄さんと一緒だったと言うんだ。結構なイケメンだって」 「あー……うん。派手かな、でも優しいよ」 「澁澤さんといい、そのお兄さんといい。喬木はいい男を引き寄せる体質なのかなぁ」 「そんなわけ……」  小橋も、榑林さんも、親友の涼も容姿は……。俺一人だけが地味メンだ!これって喜んでいい状況なのか? 「そうだ、莉子ちゃんへのクリスマスプレゼントはバッグにした。LINEで連絡が来たんだ」  綻ぶ笑顔で語りかける小橋が羨ましい。俺もノーマルだったらな、普通の恋愛ができれば。そして好きになったのが澁澤さんでなければ。  自分の気持ちは騙せない。でも、と迷う。  
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