『電車のプリンス』

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 睨む澁澤さんを残し、葉山さんと黙ったまま並んで歩いてた。よし、人の姿が疎らだな。辺りを見渡す。俺の足が急に止まると葉山さんの足取りも止まり、ゆっくり向き直る。 「葉山さん、前から考えてました。今日で会うのを最後にしませんか?」    葉山さんの双眸が驚きで見開く。突然の別れ話を予想してなかったようだ。面食らった表情を浮かべていた。    「どうして?理由を聞かせてくれないか?」  どうして? 理由はないです、と答えても、すんなり納得をしないだろう。葉山さん、先週の金曜日……。 「隠していることがありませんか?先週の金曜日、残業だって言ってましたよね。仕事帰りに偶然見っちゃったんです」    一瞬我を忘れた彼は慌てて取り繕う笑みを浮かべる。その微笑みは『嘘』で塗り固められていた。  「残業だったのは本当だよ。帰りは会社の同僚と一緒だったんだ」 「葉山さん」  俺の口からは呆れたため息しか出てこない。    少し狼狽えている葉山さんをじっと眺めてた。俺は貴男の特別な存在にならなくても構わない。都合の良いとき、会いたい時に会えればそれでいい。そう、それがお互いフリーなら。 
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