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「今日はありがとう、ご馳走さま。手ぶらで悪かったな」
「圭吾だったら大歓迎だ、いつでも来てよ。ね、柊佑」
「次は俺がご馳走するよ。涼、柊佑お休み」
別れ際、柊佑の小さな手をそっと握る。少し別れ惜しいが、涼に抱っこされている柊佑の頭を撫でてみた。
「バイバイ柊佑」
柊佑、可愛かったなぁ、血は争えないとうか、羽住家の良い遺伝子をしっかり受け継いでいる。
涼は柊佑がある程度、物事の分別が出来るしっかりした年代に成長した頃に、真実を話すそうだ。俺はさ、お前がどれだけ深い愛情を注ぎ、見守り、時には厳しく育て上げたのかはっきり伝えるよ。柊佑は涼の実子ではない、現在も行方が分からないお姉さんの子供だ。都営住宅に住む両親は生活をしていくだけで精一杯、引き取って育てるのが難しい。施設に入れることを視野に話しあい、その結果、乳飲み子の柊佑を涼が引きとることでまとまったのだ。
それからは見違えるほど明るくなり、立ち直った。柊佑を育て上げなければ。その強い思いが気弱なアイツを奮い立たせたのだろう。
アイツの最初の挫折は大学卒業を控えた二ヶ月前だ。当時の俺は就活中で何社か受けては落ち、やっとこさ内定通知を受け取った直後だった。社会人ではない、まだまだ子供の俺は……。
涼は未だやがつく人に酷い恐怖心を抱いている。それも半端ないくらいに深刻だ、一時期は誰とも会いたくないほど追い詰められていた。偶然とはいえ、俺が好きになった人を知ればどう思うのだろう。
離れていくのかな、友情が壊れるのかな。正直には話せないか。
澁澤さん……。体の関係を持つ前だったら……せめて一度きりで止めておけば……。
……スマホが鳴っている。
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