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「喬木さんは?」
「え?」
「欲しい物の、リクエストはある?」
考えてなかった、俺が欲しいもの。コーヒーに手を伸ばした澁澤さんは長い脚を組み、背もたれに背中を預ける。機嫌がいいときは、とくに分かりやすい。目元を緩め微笑む姿につい見惚れてしまう。俺が欲しいもの、それは……。
「思いつきません。あめ玉1個でも嬉しいです」
「あめ玉……」
マジかよ、と目を丸くしていた。
「本当です。一生大事にとって、食べないかも」
「クリスマスプレゼントにあめ玉でも嬉しい、初めて聞いた」
「あまりイベントごとを経験した思い出がないので……」
暗い男だと引いたかな?ちらっと反応を伺ってみる。引いている様子はなかった。
「これから沢山の思い出を作っていけばいいだろ。ふぅん、一生大事に……か」
なぜか分からないが、更に目元を緩め顔を誇ろばせていた。上機嫌だ。
「澁澤さんがくれるものは、どんな些細な物でも嬉しい。俺には勿体ないです」
「……大げさだな。喬木さんの欲しいものを考えといてよ。なるべくリクエストに応えるよう、努力する」
値段が付けられないものですよ。俺が欲しいもの……ぐっと言葉を呑み込む。
『澁澤さんの心が欲しい』。夢のまた夢の話しだ。
週末が待ち遠しくて仕方がない日々を送っていた。クリスマスイブはさ来週の土曜日、今週末は部署だけでの忘年会後に落ち合う予定だ。さすがに図面ケース入れとシャンパン1本だけのクリスマスプレゼントはないだろう。アパートに戻り、寝る前にネットで検索をした結果、澁澤さんが好みそうな物を見つけた。服や身につける物ではない。アクセサリーやコレクションとしても楽しめる、ドイツの老舗のブランドだ。うん、これにしよう。
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