前兆。

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 夜、お風呂上がりのホットミルクを飲んだ後、LINEの返信文字をタップしていた。澁澤さんが住むマンションでご馳走になった日から、習慣になっている。少しでも距離を縮めたい。 「今晩は、お疲れさまです。急遽、忘年会の幹事役に抜擢され……」  おっと、着信音が鳴り響く。急いでスワイプした。 「今晩は、忘年会の幹事役か。大変だな」 「……はい。幹事役の方がインフルエンザに掛かっちゃって」 「流行っているからな、気をつけなよ」 「はい」  困った、話題を考えてなかった。用件だけを伝えて寝るつもりだった。心地よい話し声に聞き惚れつつ、頭の中を巡らせていると「この前のこと気にしてない?喬木さん」、トーンダウンする。  この前の……? 「……気にしてません」  これで合っているのかな。 「俺が就くインテリアコーディネーターは女性の方が多いんだ。男性は、全体の三割ほどしかいない。イベントの参加者人数も必然的にそうなった」  澁澤さんの説明を聞いていると少しは特別な存在に……ダメだ、浮かれるな。緩く頭を振った。 「個人的なお誘いは以前からあるが、どうも俺は……融通が利かないタイプらしい。その、喬木さん…」 「はい」  なんだろう。
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