『電車のプリンス』

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 フリー、変にこだわっている言葉だ。何故なのかと言うと、自分は恋愛感情が欠落している。相手に他の人の存在がちらつくと、今まで『この人、いいなぁ』という気持ちが一気に急降下をし『もう会わなくてもいいか』に変化してゆくのだ。  追いかけるわけでもなく、未練がましくみっともない姿を見せる前に自分の中で終止符を打つ。あっさりとした態度に『……そんなのでいいの?』とお説教を垂れる奴もいた。    けど澁澤さんだけは違っていた。 「さっきとは別人だな、その位、感情を出して生きてみなよ。俺は毎日楽しいよ、仕事もプライベートも」。  『楽しい』───その科白がズシンと胸の中に響く。『仕事やプライベートが楽しい』?わからない、感じた試しがない。……やはり、どこか感情が欠落しているのだろうか。 「俺達、上手く行ってたじゃないか。圭吾がそう言うのなら……仕方がないのかな」 「俺は、野郎同士の関係は長く続かないと割り切った考えです」 「相手によりけりだと思うけど?」 「相手による?」 「うん。俺はお前がほんとに好きなのかなぁって、不安になる時があったよ」  益々わからない。 「葉山さん、その人、誰?」 「ほ、穂純……」   (ほずみ……?)    誰だろう。嫌な予感がしたのは言うまでもない。
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