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物事をはっきり告げる澁澤さんらしくない、まさか……不安が広がる。心臓の音が煩い。
「不満が溜まる前に言ってよ」
「どういう意味ですか、不満はありませんが」
「言葉の通りだよ、急な接待や出張が入れば、ドタキャンもありだ。他の日に埋め合わせをする、なるべくほったらかしにはしない」
「仕事だと仕方がないのでは」
「でも、ゲイ向けのお店に行くだろ」
「……行きません」
律ママのお店に行ったことを気にしているのかな。例え、ほったらかしにされたとしても気持ちは変わらない。もし俺の存在が負担になるのであれば身を引くのも一つの選択肢だ、出来れば避けたいが。
「同性同士だとそういう面は解り合えるのかな」と安堵の溜め息を吐いていた。過去に、どんな人とお付き合いがあったのか気にならないと言えば嘘になるが、止めておこう。
「幹事役、大変だろうと思うけどあまり羽目を外すなよ」
「大丈夫です。俺みたいな陰気な男は隅っこで、ちびちび飲んでいるだけですから。誰も見向きもしませんよ」
「本気でそう思いこんでいるの?」
「ええ。女子社員に混じってても違和感がないそうです、存在感が薄いと」
「確かに、喬木さんは存在感は薄いが……。ま、いいや。終わり次第、連絡を下さい」
「分かりました」と告げ電話を切った。LINEの着信音が鳴る。澁澤さんからだ、「お休み」。たった三文字の短いメッセージ。
ほったらかしにはしない、他の日に埋め合わせをする、信じてもいいのかな。素っ気ないメッセージでも嬉しくなる。これ以上、望むと罰が当たる。まだこの関係に甘えたい。もう少しだけ……夢を見させて下さい。
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