2315人が本棚に入れています
本棚に追加
「すみません、ご迷惑をおかけしました」
忘年会の会計はしらふである俺が纏めて支払う。店員さんに謝罪を述べ領収書をきってもらい、店外へ出ると、去年と同じ光景だ。片山さんの旦那さんが総務部長、柳本課長に頭を下げていた。あの気の弱さ、俺と被る……。妙な親近感が湧いた。
「喬木、ご苦労さま。途中まではいい雰囲気だったのにな」
「まぁな。片山さんは?」
「お迎えの車の中だよ。あー!来年の幹事は俺かっ!」
頭を掻き毟る小橋に、そうだよ、来年の幹事はお前だ!と心の中で叫ぶ。その大変さを思い知るがいい。俺はまだラッキーだ。会場を押さえ、下見、店との打ち合わせを田中さんが済ませていたからな、楽な方だ。
「二次会はどうします?」
「そうねぇ。あたし、行ってみたい場所があるの。ね、金田くん」
「うん、俺も井上さんと同じ意見なんだ」
だからその場所は何処なんだ?井上さんと金田さんは顔を見合わせていた。
「…本気ですか?」一瞬、言葉を失った。
「ええ、一度行ってみたかったの」
「俺も。半分、興味本位だけどね」
興味本位、うそ偽りのない発言なのだろう。井上さんは高揚した頬で瞳を輝かせる。
「バラエティー番組で観たときに、一度訪ねてみたいなぁって思ってたの」
「うん、俺も!一人じゃ入る勇気がないしさ。三人で行こうよ」
「……タクシー拾いますか?」
「なんだ、なんだ、お前ら三人で盛り上がっているな。俺も参加するよ」
小橋っ。莉子さんと会う予定なのでは?「今日は遅くなると伝えている」。あははと笑う隣で総務部長と柳本課長までもが「行ったことがないな、付き合うよ。偶にはいいだろ」と変な展開に。
俺、小橋、総務部長、柳本課長、井上さん、金田さんの6人で二次会へ。片山さんだけが帰宅か。
「二台呼びますね」
幹事役の俺がタクシーを呼ぶ羽目に。どうか、知り合いに会いませんように。澁澤さんの耳に入れば約束を破ったと怒りそうだ。機嫌が悪くなるどころでは済まされないだろう。
最初のコメントを投稿しよう!