『電車のプリンス』

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“運命の出逢い”は、あの瞬間だったのだろうなと思う。そんなの絵空事だと信じてなかった──。  でも俺にとっては「思い出したくもない、記憶から消したい出逢い」だったと断言ができる。 「喬木さんの印象?最初の頃は無気力で暗かったでしょ。この人、なにを目的に生きているのだろうってイラつく時があった。なのに体の相性は抜群によかったよね」、と含み笑いを浮かべる。  なんだそれ。俺だって、悪い印象しか持てなかったですよ、上から目線で偉そうで……実際、関わりあいたくなかったし。  けど澁澤さんは自分の信念を持って生きる人だ。仕事関しては一切、手を抜かない。妥協しない。 「拗ねるなよ」 「………んっ……ん……澁さ……」  そのまま唇を塞ぎ、うやむやに、誤魔化された気がした。くぐもった声を出す俺の腰に回した腕を強く引き寄せる。 「喬木さんのここ、硬いな」 …意地悪だ。でも、目を細めた渋澤さんの優しい眼差しにトクトクと鼓動が速くなる。『好き』。この感情だけで身体中が熱くなる────。 ◇◇◇◇◇  恋とか好きとか一目惚れとかではなく、女でも男でもいるのだ、目映いオーラを放ち瞬時に周りを惹き付ける人が。瞬く間に目が奪われ、ただ遠くで見つめているだけで、なにも出来ない。動けない。  端整な横顔が深く心に突き刺さる。自分が下車する駅に着くまで、ずっと眺めてた。
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