『電車のプリンス』

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「どうしてここに?」 「葉山さん、今日は都合が悪いって断っておきながら他の人と会ってたんだね。電話での態度がいつもと違ってたから着いてきた」  ひょっこり現れたのは俺より2つか3つ若い、可愛らしい風貌をした男の子だ。あんた、やはり二股を……。金曜日の夜、葉山さんと一緒に並んで歩いていたのはこの男の子だ、決定的だ。  その男の子に慌てて駆け寄る葉山さんの背中をみつめ、完全に終わったなぁ……。  自分に見る目がなかった証拠だ、半ば呆れて物が言えない。頭をカシカシと掻く俺はビジネス鞄を持ち直す。  さてと家へ帰ろう。あとは貴方達2人で仲良くどうぞ。    若い男の子の怒りの矛先が、その場を離れようとした俺に向けられた瞬間だった。 「ちょっと待って下さい。貴男と葉山さんはどんな関係ですか?」 「誤解のないように言っときますが、俺とは何もありませんよ?飲み友達です」  体の関係はあったが黙っておこう。余計、話しが拗れる。 「嘘だ、だって証拠がない」  証拠?んなもんないよ。でも困ったな。  ほんと参った、話しが長引くかな。明日は経理兼雑用係の俺は朝一番に電球の交換をしなくてはならないのだ。女子社員、特にお局様が煩くて敵わない。どう言い訳しよう。 「うだうだ揉めるなよ、証拠?この人は俺と付き合ってるよ。俺が本命だ」    
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