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「具合はどうですか?」
「……さっきよりも楽になった」
ネクタイを緩め、洗面所でうがいが終わった金田さんにおしぼりを手渡すと「ありがとう、喬木。迷惑をかけたな」、済まなさそうな態度で顔を拭いていた。
「カクテルは、ジュースみたいに飲みやすいですからね、注意して下さい」
「うん、そうだな、今後は気をつけるよ。あーあ、明日は二日酔いだ」
「ゆっくり寝て下さい」
その点、井上さんは賢いなぁ、自分のペースと適量を理解している。洗面所のドアを開ける俺を、金田さんが呼び止めた。
「井上さんには黙っててくれ」
「……はい」
「酔いつぶれただなんて、かっこ悪い」
頭を項垂れる様子でピンときた。彼女が好きか、好意を寄せているのだと。
「分かりました。井上さん、イブの日は予定がないそうですよ」
「知ってる。映画に誘うつもりだよ」
上手くいくといいですね、と告げ先にドアを開け出て行く。カウンター席は相変わらず派手な盛り上がりをみせていた。
「金田さんの様子はどうだ?」
「大丈夫だよ、スッキリしたみたい」
「た、喬木くん!」
はい?いつの間にかボックス席へ戻ってきた井上さんが、ソファーに座ろうとする俺に向かい、両手の掌を顔の前で合わせ頭を下げたのだ。
「ごめんなさい!」
ごめんなさい?何のことだかさっぱり分からない。
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