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「……なるほどね、そういうわけか」
「いや、あの。ち、違っ」
違う!と叫びたいのに声が出てこない。肝心な場面で……。律ママは息を潜め、興味深く、俺たちの会話に耳を傾けていた。
「そのおねぇ言葉と圭ちゃん呼びは、間違いなくあのママだろが。二次会はミックスバー、三次会は1人でゲイバーか。行かないって約束をしたよね?俺は……嘘が嫌いなんだ。いや、行ったとしても、はっきり告げてくれる方がまだマシだよ」
「澁澤さん、話しを」
……聞いて下さい。
プツッ。
「……し、澁澤さん…?」
通話が切られた音だ。急いで澁澤さんの電話番号を呼び出し、コールするが出てくれない。
5回……。
10回……。
「圭ちゃん、諦めたらどう?彼、でないわよ」
そんな……。まだきちんと話しすらしていない。20回目……。俺の鳴らすコールがしつこかったせいか、その内、着信を拒否されてしまった。
「あーあ、駄目ね。人の話しを聞こうとしない、お子様は。どうしようもねぇな」
腕を解いた律ママは呆れたようなため息と共に前髪を掻き上げる。スマホを握りしめた、真っ青な顔の俺を虚ろな視線で眺めていた。
「……わざとですよね?」
律ママの取った行動の真意が知りたい。もし下らない理由だとすれば、流石の俺も許せないだろう。
「おーい、喬木!なかなか戻って来ないからタクシーを呼んだぞ!お迎えが来てるよ、お前も早く乗れ」
……小橋とその後ろには金田さんと井上さんの姿が。ここは一旦引き上げるべきか?いや、でも。
胸のモヤモヤが納まらない。
「さっきのバーテンダーさんですか?カクテルがすごく美味しかったです。大好評でしたよ!」
「あら、嬉しいわ、ありがとう!うふふ、ちょーっと気弱な彼を借りるわね」
律ママは小橋達にカウンター席で見せた投げキッスを飛ばす。
「喬木は乗らねぇの?」
「悪いな、小橋、そうするよ。今日はお疲れさま、また後で連絡をする」
俺の腕を取ると律ママはにっこり、微笑む笑顔でバイバイと唖然とする小橋達に手を振った。
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