壊れた関係。

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 さてと。小橋達は帰ったな。  タクシーの姿が消えると「圭ちゃん、あっちへ行かない?」「ええ。道中じゃ目立ちますよね」律ママの視線は薄暗い路地裏を指していた。    こちらから話しを振ろうかな、どうしようかな、とまごつく。しばらく沈黙が続いた。  「ね、圭ちゃん」  「は、は、はい!」 「当然、怒っているわよね?あたしが電話中に、わざと大声を出したりしたのは……」 「なぜですか?澁澤さんは気づいてましたよ」  そのせいで着信拒否をされてしまった、繋がらなくなってしまった。律ママは悪びれた様子もなく淡々と言葉を繋げる。一度、真っ暗な夜空を見上げ、白い息をゆっくり吐き出した。 「彼だけは反対よ、分かるでしょ?たとえ短期間の体だけの関係だったとしても、圭ちゃんが変な事件に巻き込まれたり、傷つく姿を見たくないの」 「例の件ですか?俺は納得済みです。自分の発言や言動には責任を持ちます」 「だからね、あたしが……個人的に無理なのよ」  無理?   キョトンとする俺に律ママは、物寂しげに微笑んだ。 「そう、あたしがね。離れて暮らす妹と圭ちゃんが似てるのよ。雰囲気や性格が、そっくり。気が弱くて優しくて……可愛い女の子よ。10年前に家を勘当された、あたしの……唯一の理解者でもあるの」  俺と律ママの妹さんが……?仕事の帰りに、ふらりとお店に寄った日はいつも気に掛けてくれて話題を振ってくれていた。俺だけではなくママの店を訪れる常連客客には自分の身内のような接し方をする。──ゲイバーを構え癒されていたのは律ママの方だったのかな。    ううん、俺も、他のお客も。律ママの、あたたかな懐の心地よさに癒されていたんだ。 「圭ちゃん、彼は駄目。男妾を持つ輩もいるのよ、運が悪いと。結構、悲惨な結末よ。現在(いま)の澁澤さんが堅気でも、いずれ組に戻る可能性あるわけでしょ。圭ちゃんが堕ちていく姿を見たくない」 「律ママ、それでも俺は」  澁澤さんが好きなんだ。長く続かない相手だとしても。最後に振られても。
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