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───…………
「圭ちゃん、圭ちゃんってば。風邪、ひくわよ。そろそろ帰らない?」
「……もう少しだけ……ここにいます」
ブロック壁を幾つか積み上げただけの簡単に座れる場所に、ずっと居座り続けていた。寒さを全く感じないんだ、今夜も冷え込む夜なのに。
まるで、全ての感情が抜け落ちたようだった。
これが、俺。元の俺。澁澤さんを好きになる前の俺。他人とは深く関わらず、無気力に生きてきた自分自身だ。
「あたしも少しだけ付き合うわ」
「律ママはお店に戻って下さい。俺は1人でも大丈夫です」
「店のことは気にしないで、優秀なスタッフがいるもの。圭ちゃん、泣きたかったら泣いてもいいのよ。誰も見てないんだから」
泣く?なんで?俺が?
心は哀しみと喪失感で溢れている筈なのに、不思議と涙が出てこない。
さよなら。
最後に、澁澤さんが残した台詞。
2度と会うことがないのかな。道ですれ違ったとしても、無視をするのかな。
俺はまだ、何も伝えていない────。
「大丈夫?圭ちゃん?きっと、いつか。圭ちゃんだけを大切に想ってくれる相手が現れるよ」
身を屈めた律ママの、よしよしと俺の頭を撫でる大きな掌から優しさが伝わる。慰めの言葉も素通りしていくけれど。いつかは……。
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