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モテる澁澤さんのことだ、彼からのお誘いを待つ女性は沢山いるだろう。イベント参加者の女の子たちも、澁澤さんがフリーだと分かると熱烈なアプローチをしてきそうだ。
◇◇◇◇◇
「え、喬木。マジでいいの?」
「うん、2人に飲んでほしいんだ。俺からのクリスマスプレゼント」
「や、でも、このシャンパン……。高かっただろ、メーカー名が……」
「いいよ、気にするな。俺は予定がなくなっちゃったんだ。1人で飲んでも美味しくないし」
「……だったら尚更だ!よし、喬木。明日のイブは俺のアパートへ来い。莉子ちゃんもお前なら大歓迎だ!」
「ちょっと、さすがにそれは……。遠慮しておくよ、邪魔をしたくない」
「でも……俺の気が……」
会社近くの酒屋さんに頼んでおいたシャンパンを、外回りの小橋に無理を言って取りに行ってくれないかなとお願いをした。すでに代金は支払い済みだ、小橋にロッカーの中にでも入れといてと。
「これ、ペリエ・ジュエベル・エポックだろ。二、三万はするよな」
「……莉子さんと飲んでよ。その方が俺も嬉しい」
小橋は困り気味だ。俺が頼んだペリエ・ジュエベル・エポックは、エミール・ガレの美しいアネモネのボトルに包まれた、洗練された味わいのシャンパンだ。創設当時から各国の王族や世界中のセレブリティたちから愛されてきた。
グラスに注ぐと白桃や洋梨、レモン、グレープフルーツなどの清涼感のある果実香に、白い花やトーストを思わせるエレガントなアロマが広がる。シャンパーニュの芸術品と称される逸品だ。
「じゃあさ、帰りに半分だけ支払うよ。俺の気が済まない」
「……うん、分かった」
半分だけでも受け取らないと小橋が気にするかな。イブの予定がなくなった、小橋はその経緯を聞こうとはしない。俺が話すまで待つつもりなんだろう。
まっさらになったスケジュール帳。俺の心も澁澤さんと出会う前の……まっさらな状態になればいいのに。
律ママの前では涙ひとつさえ浮かんでこなかったのに、朝、目覚めると枕が濡れている。それも毎日だ。
さよなら、か。
まだずっしり重くのしかかる。
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