broken heart・1

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「本当にこのシャンパン、譲ってもらっても良かったの?」 「うん、俺には……必要がなくなっちゃったから」 「そ、そっか。じゃあ遠慮なく頂くよ」  小橋は何かを訊きたそうにして口元を歪めたが、他愛ない話を振ってくる。莉子さんが作るクリスマスケーキとディナーが楽しみだと語った。俺は「そうなんだ、莉子さんは料理が好きなんだね。楽しいイブを」、と社員証をレコーダーにかざした。 「ありがとな。このシャンパンでいい思い出を残せるよ」  次いで小橋も社員証をかざし、硝子の自動ドアを潜り抜ける。小橋は真っ直ぐ帰宅するそうだ。俺もそのまま帰る予定。駅まで一緒か。綺麗に、派手に彩りられたクリスマスムードが漂う街並みを歩くのは少し抵抗があるけれど、あまり景色を眺めないようにしよう。澁澤さんから頂いたマフラーで顔を隠すようにして巻いてみた。  笑顔で『さよなら』と告げるんだ。小橋は口には出さないが、きっと心配をしている。嘘でもいい、笑顔でさよならを。 「今日は片山さんの機嫌がよかったな。仕事がしやすかった」 「うん、そうだね。あの人のヒステリーで、部署の雰囲気ががらりと変わる……」 「だよな、仕事は出来るんだけどさ。……喬木、どうした?」  俺の足が止まる。不思議がった、隣を歩いていた小橋の足も止まった。  神さまなんていないんだ……。いや、これは俺の問題だ。心の問題だ。 「なんだよ、あの美女?美少女は!?顔小っさ!モデル顔負けだよ、り、莉子ちゃんの次に可愛い」  小橋や俺や周りの人たちが目を瞠るほどの女性が反対方向から歩いて来る。
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