broken heart・1

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「ねぇ、腕を組んでもいいですか?」 「それは、仕事と関係ないよね?」 「ほんとお堅いですよね。有名ですよ、誰も堕とせないって」 「君が今度のテーマについて相談事があると言うから。恋愛には…興味がないな。仕事の方が楽しい」 「そうですけど。澁澤さんを堕とせる人って、存在するのかしら」    ぷくっと剥れた女性は清楚な白のコートと白い帽子を被った、とても可憐で小柄で可愛い。心臓がばくばくと高鳴り出した。    けど、なにも事情を知らない小橋は簡単に声を掛ける。止めてよ、お願いだ。立ち去りたい。小橋と俺の姿をとらえた澁澤さんの瞳が大きく見開く。お邪魔だったかも。 「こんばんは、デートですか?すっごい美人さんですね、とてもお似合いです。な、喬木」 「……デート……。あ、まぁ。そうですね」  女性がきゃーと、ときめく。デート…。俺がいるから?さっきの会話では仕事の……。目頭に熱いものがこみ上げる。だけど、ぐっと堪えた。 「あたし、明日のイブは予定が空いてるんですよね。澁澤さんは?」  う……わ。ダメだ。これはきつい。目が合わせられなくて俯き加減で聞いていた。 「俺も空いてるよ。都合がつけば食事にでも行こうか」  肯定とも断りとも取れる、曖昧な返事を返す。思い切って顔を上げると気難しそうな顔をした澁澤さんと視線がぶつかった。でも、俺は馬鹿だ。正真正銘の大馬鹿者なのだろう。 「こ、こんばんは。俺も小橋と同じ意見です。お二人とも、とてもお似合いですよ。明日は素敵なクリスマスイブを過ごしてくださいね」  自分でもテンパっている。ああ、もう。頭の中がぐちゃぐちゃだ、どうしよう。 「…そうだな、そうするよ。貴方も素敵なクリスマスイブを」  あ、と後悔をしたが、もう遅い。眉間に皺を寄せた澁澤さんは女性の細い肩を強引に引き寄せた。  俺に見せつける為?  振られたのは俺の方なのに。  胸が苦しい。またさっき我慢をした熱いものがこみ上げる。せめて2人がこの場を去るまで溢れ落ちないよう我慢しよう。
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