2315人が本棚に入れています
本棚に追加
/253ページ
─────
───………
「……喬木、おい、喬木ってば!」
小橋の大声で我に返る。あ、俺……。ぼーとしてた。一度、鼻をグスンと啜る。冬の季節で、マフラーを巻いててよかったと思う。目が赤いのだけは悟られたくない。
「澁澤さん達、行ったね」
「ああ、今夜ホテルにでも泊まるんじゃねぇの、いい雰囲気だった」
ほ、ホテル?!
後頭部を鈍器で殴られたような衝撃が。さっきからずきずきと胸が傷むんだ、息が苦しい。
女性の肩を引き寄せた澁澤さんは、とても冷めた表情を浮かべていた。あの時、俺が「待って下さい」と呼び止めていれば、少しは誤解が解けたのだろうか。せめて友人のポジションに戻……なんて、考えが甘過ぎる。
小橋はやはり目敏い。新調をしたマフラーにいち早く気がついていたし、こうやって今も。
「お前、目が赤いよ?あんな美女と肩を並べてさ、積極的に攻めてこられたらな、男として悪い気はしない。泣くほど羨ましかったんだろ、大袈裟だなぁ」
目敏いが勘違いをしている。鋭いが「鈍い男」で助かった。
「そ、そうだね。羨ましいな」
「俺がフリーだったら間違いなく口説く。ごめん、莉子ちゃんには内緒にしといてくれ。…あ…喬木!」
これ以上、会話をしたくない。溢れそうな涙をなんとか必死で堪えているものの一滴でも流れるとヤバそうだ。きっと止まらない。「ま、待てよ!」「……寒くて風邪をひきそうなんだ。さっきの話しは、莉子さんには内緒にしとくよ。お疲れ、小橋。楽しいクリスマスイブを過ごしてくれ」。……後味が悪かったな、吹っ切るかのようにして小橋と別れた。
明日と明後日のクリスマス。そうだ、クリスマスケーキのホール食いに初挑戦をしてみるか。胃薬を常備して。
最初のコメントを投稿しよう!