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◇◇◇◇◇
「今日は楽しかったです。僕達まで便乗しちゃって、すみませんでした。ありがとうございました、とても美味しかったです、ご馳走様でした」
涼はお礼の言葉を丁寧に述べると頭を下げた。小橋と莉子さんは「気にしないで。またいつでも遊びに来てよ」、と玄関先で笑顔を浮かべる。俺もきちんと挨拶をしておこう。
「小橋、莉子さん、今日は本当にありがとう。ご馳走様。お陰で元気が出たよ、楽しいクリスマスパーティーだった」
「俺はだな、お前がますます職場で暗くなるのが嫌だったんだ」
「そうよ、賢人くんの言うとおりよ。親友が落ち込んでいると、こっちまで暗くなっちゃうもん」
小橋は軽い男だが、根はいい奴だ。俺とは真逆のタイプだけど、いざという時には頼りになる。俺は小橋にいつも助けられていたんだなぁとつくづく感じた。
そこで涼が「そうだ、お二人とも、外に出る時間はありますか?」、なにかを思いついたような口振りだ。
「ささやかですがお二人に、今夜のお礼がしたいです。圭吾には一日でも早く元気になってほしいんだ。僕からの……クリスマスプレゼントだけど」
小橋は俺と同じダウンジャケットを、莉子さんはプードルコートを羽織る。外に出て最寄り駅の中へ入るとカラフルな色で彩られた可愛いピアノが1台、赤い銃弾の上に設置されている。
時々、涼がバイトをするストリートピアノだ。夜の9時、しかも今夜はクリスマスイブ。ギャラリーの数は少ないが動画や写真を撮っていた。
「弾いているのって駅員さんよね?珍しい、あたしも動画を撮っちゃお」
「圭吾、柊佑をお願い。けーちゃに抱っこしてもらおうね」
「ぱぁぱっ。……けーちゃ?」
「うん、おいで柊佑。お前のパパが弾くそうだ」
駅員さんがショパン、だよな?涼はそう言ってたが。弾き終わるのを待ち交代をすると涼は深呼吸を2、3度繰り返した。
ピアノの前に座る。繊細な涼の見た目はギャラリー達がうっとりするほどの綺麗な顔立ちだ。莉子さんや小橋も最初は俺の親友だとは半信半疑だった。む、失礼な。
「え、と。皆さん、こんばんは。今夜は幸せなカップルと僕の大事な親友の為に、曲をプレゼントをしたいなと思います」
優しく大人しい雰囲気ががらりと緊迫したものへと変わった。
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