2315人が本棚に入れています
本棚に追加
/253ページ
定番の俺たちにも分かるクリスマスソングは真っ赤なお鼻のトナカイさんだった。軽快でコミカルなリズムは明るく楽しい気分にさせる。次に選んだ曲は……。
「フランツリストの愛の夢です。『3つの夜想曲』という副題を持ち、第3番はとくに有名ですね。この曲を世界中の恋人たち、家族、僕の大事な親友へ」
り、涼?タイトルから想像すると甘い切ない恋のイメージだ。失恋をした俺には辛いよ。けれど最後まで聴いてみて、涼が伝えたかったことを理解したんだ。
「サビ」が最初に来る「愛の夢」第3番は、いきなり美しいメロディーから始まった。そしてその美しいメロディーを中心に曲が組み立てられている。
前半は真ん中のメロディーを中心に右手の伴奏を抑えつつ、連続する2つの音を途切れさせずに滑らかに弾いていた。
中盤になると涼の細い指先が忙しく動く。指の重みがかからないよう、少し手首を上げていた。この曲の頂点を目指し、勢いがどんどん増してゆく。
涼、すげぇ……。別人だ。
周囲のギャラリーや小橋、莉子さんまでもが感嘆の溜め息を溢し聞き惚れていた。後半にさしかかると最初のような落ち着いた雰囲気に戻り、しっとりした、鳥のさえずりのようなイメージが頭の中に浮かんだ。
この後半の部分で「色んな出来事、辛いことや悲しいこと。楽しいこと。嬉しいことを乗り越えてきたなぁ」と過去を懐かしんでいるような……。
涼が奏でる曲は力強くて優しい。一曲一曲、情熱を込めて自分の想いを伝える。柊佑、お前のパパは凄いな。あの細い体で人を感動させることが出来るんだ。涼の伝えたいことが心に届く。
演奏が終わると立ち上がった涼はギャラリー達に向かい、「ありがとうございました。皆さんも素敵なクリスマスを」と頭を下げた。
最初のコメントを投稿しよう!