broken heart・1

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 ギャラリー達の盛大な拍手を浴び、涼は柊佑を抱っこする俺の前に立つ。不覚にも俺の目には透明の滴が沢山溢れていた。 「……っ……なんだよ、お前。こんなのっ……反則じゃんっ」 「圭吾、柊佑をありがとう。ほら、柊佑……おいで」 「ぱぁぱっ」  俺の手から柊佑が離れてく。柊佑は涼に抱っこされながら涙が止まらない俺の頬を小さな手で撫でていた。 「羽住くん、完璧な演奏だったわ。プロのピアニストに充分なれる素質が……ぐすっ……あたしも感動しちゃった!」 「僕はこうやってたまに息抜きが出来れば……。空いた時間は柊佑と触れ合いたい。僕の生きる糧は柊佑と過ごす時間なんです。圭吾、僕がこの曲を選んだ理由は……」  涼の想いが嬉しい。小橋は嬉し涙を流す俺の肩を軽く叩いた。 「“愛の夢“は人間愛を顕した曲だと思うんだ。作曲をしたリストは様々な挫折を乗り越えながら努力をしたピアニストだよ。僕は圭吾に、今は辛い状態なのかも知れないけれど乗り越えてほしい。その辛い思い出を、こんなこともあったなと笑い飛ばるくらいにさ、強くなってよ」  なんで知ってるんだ?詳細を語ってないのに。恥ずかしかったがズビっと鼻水を啜る。   「……分かるよ、何年親友をしてると思ってるの?僕は圭吾に沢山救われたんだよ。僕が引きこもったとき、君は毎日のように家を訪れ、部屋のドアを叩き、語りかけてくれた。ごめんね、圭吾の気持ちを理解してあげれなくて。でも、もう大丈夫だよ。だから一日でも早く圭吾に元気になってほしいんだ」 「……ああ」  涙と鼻水で濡れた顔でこくんと頷いた。ありがとう。莉子さんがハンカチを、そっと手渡してくれた。
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