甘く蕩けるような……

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 忙しい師走、今年もあっという間だった。  28日から来年の5日まで正月休み。28日の出勤最終日は部署の大掃除に全社員が取りかかり、午前中で業務が終了した。俺と小橋は年内最後のお昼を一緒に食べよう、と行きつけのラーメン店へ。相変わらずの混雑振りだ。  クリスマスの翌日は社内の喫煙所で小橋にたくさんお礼を述べた。ありがとう、元気が出たよと。涼にも、昼の休憩時間に感謝の気持ちをラインで送る。  人付き合いが苦手な俺だが、人との繋がり、助け合い、支え、そんな当たり前のことがどれだけ大切なのか少し分かった気がした。一気にこの無気力な性格を変えるのは無理だが、うん、目の前にいる人達だけでも大事にしていこう。  肝心の澁澤さんとの関係は変化なしだ。たまに短いメッセージが送られてくるだけ。  ちょっぴり物寂しさを覚えるけど。 「喬木は年末年始の予定はどうするの?」 「実家に帰ろうかな。正月は兄貴が可愛い姪っ子を連れてくるらしい。お年玉をあげなきゃな」 「くっ、しっかり集られてんじゃん。子供はいいよなぁ。たしか、喬木のお兄さんのところは来月中に二人目が生まれるんだっけ」 「うん、次は待望の男の子みたい」 「来年は喬木にとって出費が多い年か。俺たちの挙式は6月だけど、出席O.K.だよな?」 「ああ、もちろん出席するよ」  小橋や莉子さんにどれだけ救われたか。澁澤さんも当然式には出席するだろう。でも、きっと大丈夫。顔を見合わせても笑顔で挨拶ができる。 「それでだな、喬木に一つお願いがある」 「ん?なんだ?」  小橋は手をすりあわせ、愛想笑いを浮かべていた。どうせ、そうだろうなと思ったよ。ラーメン代の伝票を持ち「奢る」と申し出た時点で。  小橋のお願いはストリートピアノで演奏を披露した涼のプロ並みの腕前に惚れた莉子さんが、ぜひ自分達の披露宴にもピアノを弾いて欲しいというものだった。  涼は立っているだけで絵になる程の綺麗な男だからな。動画をYouTubeやSNSで流したところ、結構な反響があったそうだ。お礼は弾む、とは言うけれど、アイツの都合がある。 「予定を訊いてみるよ。アイツ、来年の4月に小学校の教職に就くんだ。結構忙しいかも」 「そ、そっか。出来れば、前向きに検討をお願いします」
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