甘く蕩けるような……

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「あの……」張り詰めた雰囲気が漂う。真冬の寒さも手伝い、ピリピリした冷たい空気が頬を撫でた。 「さきに俺から謝るよ。一時的とはいえ着信拒否をしたのは悪かった、酷い言葉を投げつけた。喬木さんが嫌いになったとか、そういうのは一切ないよ。俺が……未熟なだけなんだ」  少し身を屈めると俺の後頭部と背中に手を回す。キュッと抱き締め、傷つけてごめんねと謝っていた。  俺も謝らなきゃ。好きですの言葉を伝えなくては。どうか勇気を下さい。  振られても構わない、叶わない恋だとしても。俺には親友がいる、小橋と涼の二人の姿が頭の中に浮かび背中を押してくれたんだ。 「俺の方こそごめんなさい、変な誤解をさせてしまって。あの日はゲイバーに行ってません、誓って言えます。俺は澁澤さんが……」  空から白い、小さな結晶が舞い落ちる。はらはらと幾つも降ってくる。あ、これは……。過ごせなかったクリスマスイブを思いだした。 「……雪ですね」 「ああ、雪だ。クリスマスイブ、過ごせなかったな」  冷たい雪が温かく感じるのは澁澤さんの腕の中にいるから? 「改めて言うよ、メリークリスマス。喬木さんが好きだ」  ……え?いま、なんて……?好きだ、って。聞き間違い?本当に?澁澤さんの瞳は真剣だ。近づく唇、ゆっくり瞼を閉じた。    軽く、触れただけのフレンチキス。瞼を開けた俺は小さなため息をつき、「俺も……好き。ずっと……澁澤さんが……好きです。……メリー……クリスマス」、最後の科白は声が震える。夢なのかな、一番欲しいと願った貴方の心が手に入るなんて。 「俺、男ですよ? いいんですか?」  本気で恐々尋ねたのに、澁澤さんはクスリと微笑んだ。う、酷いや。今さら聞かなかったことには出来ない。 「早まったかな?」 「え」 「嘘だよ、冗談でも言えない」  はらはらと降り始めた白い雪がイルミネーションの光りで輝いて見える。幻想的な美しさだ。「周りが勝手に王子さまだとかプリンスだとか、見た目だけで判断をするんだ、本当の俺を知らねぇのに。でも今夜は、それらしいことをしてみるか。雪の結晶を花束の代わりに……。好きです、俺と付き合って下さい」と俺の手を取りキスを落とした。 「はい、宜しくお願いします。夢……みたいです。……嬉しい」  真っ赤に頬を染め、涙声で応える俺をみて、澁澤さんの整った唇が綺麗な弧を描いた。2度目のキスは睫毛と頬に軽く振れたあと、強く唇が重なった。俺には砂糖のような、蜂蜜のような味がしたんだ。甘く、蕩けるような不思議な感覚だ。  
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