last・君しか見えない。

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last・君しか見えない。

───── ─── ── 「お~い、圭吾さん?朝食ができたよ?」 「おはようございます、一颯さん」  パチッと目を開けた。ふわぁぁ、大きなあくび、背伸びをした。時計を確認すると7時前だ、ぎりぎり間に合う時間だ。 「せっかくお互いの職場に近い場所を選んだんだ、朝食は食べような?後ろ髪が跳ねてるよ」 ──え!    クスリと笑う澁澤さんとモーニングキス。当然、そうするつもり、澁澤さん手作りの美味しい朝食をごちそうになろう。 「ありがとうございます、さきに顔を洗ってきますね」 「うん、珈琲を入れて待ってるよ」  ベッドから足を降ろし、洗面所へと向かった。顔を洗い、鏡に映る俺を見る。『結婚』までの道のりがバタバタだったなぁ。……でも、その忙しさも今となっては良い思い出なのだ。ふふ、懐かしさがこみ上げる。  リビングルームへと続くドアを開けると、焼きたてのパンと淹れ立ての珈琲の甘い匂いが。 「喬木さんの好きなコスタリカ産の珈琲豆とホットサンドにしてみた。こっちはツナとチーズ、そっちはアボカドが入ってる。いちごのヨーグルトつき」 「いただきます。明日は俺が作りますね」 「無理しなくてもいいよ。どちらかが、できる方にしようって決めたじゃん」  楽しい朝食タイムの始まりだ。 「───忘れものはない?」 「はい、大丈夫です」  俺がクリスマスプレゼントに贈った図面ケース入れを肩にひっかけ、ロングコートを羽織る澁澤さんが最後に鍵を閉めた。駅まで2人一緒、本当に夢みたいだ。 「生活必需品に足りないものがまだあるから、今度の休みに買い出しにいくか」 「ええ。そのことですがお義母さんが付き合いたいそうです。一緒にショッピングしましょ~、と俺のスマホに連絡がありました」  そこで澁澤さんの表情が一瞬曇る。マジかよ、と深いため息を吐いた。   「圭吾さんはなんて?」 「一颯さんに訊いてから返事します、とだけ伝えました」 「わかった、俺から連絡を入れとくよ。ホームが違うな、じゃあまた」  はい、また。バイバイと手を振る。澁澤さんの背中が見えなくなるまで、ずーっと見続けていた。懐かしい光景だ、遠目で憧れていたあの頃、当初は最悪な印象しか持たなかったのに現在(いま)は俺の旦那さま、皆が羨ましがる。  そうだ、休みの日にはマリッジリングをつけよう。満員電車に揺られながら小さな幸せを噛みしめた。      
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