『電車のプリンス』

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 自分の方が悪いことをした気分になる。  付き合っていたわけだし、嫌な相手でもなかった。葉山さんは礼儀正しく、落ち着いた大人の男性だ。つまり、非の打ち所がないのだ。チクッと胸が傷む。 「圭吾がその人と付き合っているのかどうか確かめるなんて、野暮な詮索はしないよ。今度こそ、本気で好きになれる相手だといいな」 「葉山さん、今日は呼び出してすみませんでした。その……今までありがとうございました」  その男の子と去って行く。貴方に酷いことをしたのかな。 『本気で好きなのかなって、不安になる時があったよ』。  本気で好きになる感情が分からない。ゲイの俺はまともな恋愛をしては駄目だと心の中でブレーキかけている、それが身についてしまっている。   「やっとアイツら行ったな。さぁてと、喬木さん、だっけ。貴方が社員バッジ取りに来なかった理由を是非お聞かせ願いませんでしょうかね?」  しんみり肩を落としていた俺はハッと我に返る。  そうだった、澁澤さんの腕の中だった。逃げられない。声がやたら低い。さっきの男の子の怒りの矛先を向けられた時よりも恐怖を感じた。
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